東かがわ市議会「議会ハラスメント対策」視察報告
2026年7月30日|香川県東かがわ市|政治と介護を紡ぐ会 県外視察
ハラスメント事案が生じたとき、議会は誰を信じ、どのような基準で判断し、何を市民に説明するのか。そこに感情や人間関係が入り込めば、被害を訴えた人も、行為者とされた人も、調査に携わる人も傷つきかねません。今回の視察で最も心を動かされたのは、東かがわ市議会が『人を裁く』のではなく、『事案を公正に判断する』ため、事実と数値を軸に独自の評価システムを組み立てたことでした。


議会の信頼を守るために、避けて通れない課題
2026年7月30日、「政治と介護を紡ぐ会」の県外視察として、香川県東かがわ市議会を訪問しました。研修テーマは「議会ハラスメント対策」。
工藤正和議長、山口大輔副議長、議会事務局の皆様から、実際の事案を受けて設置されたハラスメント調査特別委員会の取組と、その後の制度整備について詳しい説明を受けました。
議会は、行政を監視し、政策を議論し、市民の声を市政へ届ける場所です。その役割を果たすためには、議員同士はもちろん、議員と職員との間にも、率直に意見を交わせる信頼関係が欠かせません。厳しい政策論争や行政への指摘は必要です。
しかし、目的が正しくても、伝え方や手段が相手の尊厳を傷つけ、就業環境や業務遂行を阻害すれば、議会全体への信頼まで損なう可能性があります。
東かがわ市議会が視察の冒頭で示した考え方は明確でした。目指すのは、誰かを罰すること自体ではなく、公正な調査、再発防止、信頼回復です。この順序が、今回の取組を理解する重要な鍵だと感じました。
ルールがない中で始まった、議会による検証
発端は、2025年6月26日、市長から議会へ提出された「市議会議長の職員に対する行為等に関する申し入れ」でした。当時、東かがわ市議会には、この種の事案を処理するための専用ルールや常設の調査機関がありませんでした。つまり、何を根拠に、誰が、どの手順で調査するのかという土台からつくらなければならなかったのです。
議会は申し入れの翌日から協議を始め、6月30日の議会運営委員会で調査方法を検討。7月4日の臨時会で、委員8人によるハラスメント調査特別委員会を設置しました。委員構成では、議会運営委員会のメンバーを中心としつつ、参加していない会派や無会派からも委員を選び、特定の立場に偏らない体制を整えました。特別委員会は同年9月24日までに合計12回開かれ、聞き取り、再調査、事実確認、要件判定、対処の検討、報告書作成を重ねています。

なぜ「特別委員会」だったのか
視察説明では、特別委員会方式を採用した理由として、公式の議事録を残せること、プライバシー保護のため秘密会に対応できること、そして最終的に本会議へ正式な報告・提言ができることが挙げられました。重要なのは委員会の名称ではなく、調査の正当性を後から説明できる仕組みを持つことです。事案が起きてから手続を探し始めれば、初動が遅れ、関係者の不安と憶測が広がります。東かがわ市議会の経験は、平時にこそ調査手順を用意しておく必要性を示しています。
初動調査で徹底した「三つの原則」
ルールのない状況で、東かがわ市議会が最初に共有したのは、感情や人物像ではなく事案そのものを確認すること、双方の意見を聞くこと、公正・公平・中立な立場で進めることでした。『あの人ならそんなことはしない』『あの人ならやりかねない』という先入観を排し、確認できる事実を積み上げる。その姿勢が、後の評価システム全体に貫かれています。
聞き取りのばらつきを抑える
特別委員会の設置を待たず、議会運営委員会は副議長を聞き取り調査担当者に選任しました。担当者を1人にしたのは、質問の仕方、受け止め方、記録方法の差を抑えるためです。専用のヒアリングシートには、誰が、いつ、どこで、何を、なぜ、どのように行ったのかという5W1H、関係者の認識、資料の有無、求める行動改善や対処などを整理。LINEメッセージや当日のメモなどとも照合し、必要に応じて再聴取を行いました。
安心して話せる環境をつくる
聞き取りでは、時間や場所を一方的に指定せず、対象者が安心して話せる条件を重視しました。原則として議会側から議会事務局長、執行部側から総務部長が同席し、中立性と心理的安全性を確保。聞き取り調査担当者は守秘に関する宣誓を行い、調査資料は閲覧権限を限定しました。これは秘密にして事案を隠すためではなく、関係者の名誉とプライバシーを守り、率直な証言を得るための措置です。
最も感銘を受けた「数値化による客観評価」
今回の視察で、私が最も感銘を受けたのが、感情や先入観の影響をできる限り小さくするための評価システムです。人間が行う調査から主観を完全にゼロにすることはできません。
しかし、判断項目を明示し、各委員が同じ尺度で評価し、集計結果と根拠を残すことで、恣意的な判断を大幅に減らすことはできます。

当事者の受け止めを5段階で把握
聞き取り対象者には、『権威を盾に取られたと感じたか』『強要されたと感じたか』『口調が荒いと感じたか』『業務に支障が出たか』『ストレスを感じたか』などを、1から5までの尺度で回答してもらいました。『アドバイスだったのか』『コミュニケーションは取れていたのか』という行為者側の説明に関わる項目も同様に数値化しています。言葉だけでは受け止め方の強弱が曖昧になりがちですが、共通の尺度を使うことで、複数事案を比較し、全体傾向を分析できるようにしました。
証拠の強さもAからDで評価
調査対象となった9事案については、各委員が証拠強度をA「信憑性が極めて高い」からD「信憑性が低い」までの4段階で評価しました。公式報告書の集計は、A評価39%、B評価33%、C評価10%、D評価18%です。AとBを合計すると72%(39%+33%)となり、報告書では全体のおよそ7割について信憑性が高いと整理しています。一方で、証言の食い違いや裏付け不足がある事案は、注目度の高さに流されず、認定に慎重な判断を示しました。
三つの要件と、段階的な対処
判定では、東かがわ市職員カスタマーハラスメント基本方針を参照し、①要求の内容に妥当性があるか、②要求を実現する手段や態様が社会通念上相当か、③職員の就業環境や業務遂行を阻害し、尊厳を傷つけていないか、という三つの要件を確認しました。そのうえで、該当要件の数や公的書面・裁判結果の有無に応じて区分ⅠからⅤまでに分類し、説明、謝罪、指導、改善策の提出、役職辞任勧告、議員辞職勧告などの基本的な対処と結び付けています。
視察時の説明では、この仕組みを『一次判定』と『二次判定』に分けて運用したとのことでした。まず、共通基準に基づいて機械的に区分と基本対処を導き、その後、個別の事情や再発可能性などを確認して、必要に応じて対処を前後させる。委員が最初から『辞職させるべきか』『そこまで重くしなくてよいか』を議論するのではなく、事実と要件を評価した結果として対処が導かれる設計です。判断する委員の心理的負担を減らし、市民に対しても『誰が決めたのか』ではなく『どの基準でこの結論になったのか』を説明しやすくする工夫だと理解しました。
「秘密会」と「情報公開」を両立させる
ハラスメント調査では、透明性を高めようとするほど個人情報が広がり、守秘を優先するほど『隠している』と受け取られる難しさがあります。東かがわ市議会は、公開する情報と公開しない情報を明確に分けました。調査の進捗や委員会の開催状況はホームページや議会だよりで公表する一方、個々の証言や個人を特定し得る内容は保護する。秘密会の冒頭部分を公開し、その後の審議は非公開にするなど、議会が実際に動いていることを見せながら、関係者の安全を守る運用も行われました。
メディア対応は窓口と説明を統一
報道機関からの問い合わせは議会事務局に一本化し、委員長・副委員長と、いつ、誰が、どこまで説明できるかを整理してから回答しました。情報を出さないのではなく、出せる情報を同じ条件で正確に伝える。説明の時期を明示し、異なる解釈が広がりそうな場合はその場で訂正する。SNSで断片的な情報が急速に広がる時代に、憶測や風評被害を抑えるための危機管理として、非常に実務的な学びでした。



結論を出した後こそ、議会改革の本番
調査報告書は、個別事案の判定に加え、議会として改善すべき内容を示しました。具体的には、ハラスメント対応の手順を明文化すること、議員の品位保持に関する規範を再確認すること、軽微な事案への対応や外部弁護士・第三者機関の助言を得る仕組みを整えること、アンケートなどにより兆候を早期に把握することです。
条例をつくれば終わり、ではない
視察時点で東かがわ市議会は、ハラスメント防止等に関する指針案の最終調整を進めていました。説明の中で印象的だったのは、最初から硬直的な条例にするのではなく、まず指針や規則として運用し、検証と見直しを重ね、完成度を高めてから条例化を考えるという発想です。制度はつくった瞬間が完成ではありません。相談しやすいか、初動が機能したか、守秘と説明責任のバランスは適切かを継続的に点検する必要があります。
大きな事案になる前の「ヒヤリ・ハット」を拾う
研修では、ハラスメントが大きな問題として表面化する前の、小さな違和感や困り事を拾う重要性が繰り返し語られました。『少し言い方が強かった』『相談してよいか迷う』『同じことが続いている』という段階で共有できれば、深刻化を防げる可能性があります。アンケート、定期研修、相談窓口、議員間の振り返りなどを通じ、問題の芽を早期に見つける。これは処分中心ではなく、予防中心の議会へ転換する考え方です。
制度を支える人の負担も見落としてはならない
質疑では、議会事務局の負担についても率直な説明がありました。東かがわ市議会事務局は4人の小規模体制で、機密性の高い情報を扱う職員を限定しながら、通常業務と特別委員会対応を並行したとのことです。調査対象者と日常的に接しながら、調査事務も進める精神的な負担、情報を共有できない職員が抱える歯がゆさ、他の職員へ移る通常業務の負担もあったと語られました。
制度だけを整えても、それを運用する職員が疲弊すれば持続しません。担当者を孤立させない体制、外部専門家へ相談できるルート、記録様式や公表基準の標準化、メンタル面の支援まで含めて設計する必要があります。この点は、規模の異なる横須賀市議会で検討する際にも欠かせない視点です。

私が質問した「感情の落としどころ」
私は質疑の中で、事実と数字で結論を導く仕組みは理解できた一方、申し入れをした職員、市長、行為者とされた前議長が、最終的にどのような納得感を持ったのかを尋ねました。ハラスメント事案は感情から切り離せない問題であり、制度上の結論が出ても、関係者の心情が直ちに整理されるとは限らないからです。
公開された調査報告書によれば、聞き取り対象となった職員が求めていたのは、議長職の辞任や処分ではなく、制度や事業を理解したうえで意見してほしい、議長という立場を意識した発言をしてほしい、相手の都合を考えた対応をしてほしい、といった行動の改善でした。職員から求める『対処』は『なし』と記録されています。これは、ハラスメント対策の本質が必ずしも厳罰化ではなく、相手の尊厳を守り、行動を変え、同じことを繰り返さないことにあると示しています。
同時に、どれほど公平な手続きを尽くしても、すべての感情が消えるわけではありません。だからこそ、事実認定と対処だけで終えず、関係修復、再発防止、相談支援までを一つの仕組みとして考える必要があると感じました。
横須賀市議会で検討すべき五つの視点
1 事案発生前に、受付と初動のルールを定める誰が相談を受け、誰に報告し、どの段階で議長・副議長・議会事務局・外部専門家につなぐのかを平時に整理する必要があります。軽微な相談から重大事案まで、段階に応じたルートを設けることが重要です。
2 聞き取りと判定を分け、共通様式を持つ事実を集める役割と、要件に照らして判断する役割を分け、5W1H、証拠資料、当事者の認識、再発可能性などを共通様式で記録する。担当者が変わっても一定の品質を保てる仕組みが必要です。
3 事実、証拠強度、要件、対処を段階的に結ぶ最初から処分の重さを議論するのではなく、事実確認、証拠の信頼性、ハラスメント要件への該当性、再発可能性、対処という順序で検討する。東かがわ市議会の数値化は、その透明性を高める有力な手法です。
4 守る情報と公開する情報の基準を決める個人の証言や特定につながる情報は厳格に守る一方、調査開始、委員会の開催、現在地、報告予定などは可能な範囲で公表する。報道対応の窓口と回答権限を一本化し、説明のばらつきを防ぐ必要があります。
5 処分より前に、予防と相談の仕組みを育てる定期研修、自己点検、匿名アンケート、相談窓口、事例共有などにより、深刻化する前の違和感を拾う。制度を定期的に見直し、議員と職員の双方が安心して利用できるものへ改善し続けることが大切です。
秩序ある議会とは、厳しい意見を封じる議会ではない
議会ハラスメント対策という言葉から、議員の発言を萎縮させる制度を想像する方もいるかもしれません。しかし、目指すべきは批判や厳しい議論をなくすことではありません。
政策や行政運営については、これまで以上に活発に議論する。その一方で、相手の人格を傷つける言動や、立場を利用した不相当な圧力は許さない。その境界を、感情や力関係ではなく、共通の基準で判断できる議会をつくることです。
東かがわ市議会の取組は、ルールがなかった状況から、関係者の苦労と試行錯誤を重ね、事実と数字に基づく仕組みを一から構築した実践でした。
特に、『人を裁くのではなく、事案を判断する』『結論を出した後は、誰を責めるかではなく議会をどう変えるかを考える』という姿勢は、横須賀市議会における秩序ある議会運営を考える上で大きな示唆となりました。
今回学んだ仕組みをそのまま移すのではなく、議員数や事務局体制、既存の条例・規則、相談体制など横須賀市議会の実情に照らして検証し、公平性、信頼性、再発防止、説明責任を備えた制度のあり方を研究してまいります。
参考資料・確認情報
1.東かがわ市「特別委員会の設置について」
https://www.higashikagawa.jp/soshikikarasagasu/gikaijimukyoku/gyomuannai/mousiire/6880.html
2.東かがわ市「調査の経過について」
https://www.higashikagawa.jp/soshikikarasagasu/gikaijimukyoku/gyomuannai/mousiire/6867.html
3.東かがわ市議会 ハラスメント調査特別委員会「調査報告書」(2025年9月24日)
https://www.higashikagawa.jp/soshikikarasagasu/gikaijimukyoku/gyomuannai/mousiire/6867.html
4.視察研修文字起こし「07-30 視察研修:議会ハラスメント対策」(2026年7月30日)
注:一次・二次判定、情報公開・メディア対応、ヒヤリ・ハット、議会事務局の負担等に関する記述は、主に視察時の説明・質疑(00:26:16~00:57:04、01:26:16~01:44:44)を基にしています。公開状況や制度整備の段階は視察日(2026年7月30日)時点の説明に基づきます。
横須賀市議会議員:ひろなか信太郎